So-net無料ブログ作成

「世にも奇妙な人体実験の歴史」 [Book - Public]

 自らの理論を信じて自分の肉体で危険な実験を行い、今日の医学、科学の礎を築いた科学者たちによる、驚異のエピソード。

「世にも奇妙な人体実験の歴史」 T・ノートン著(文春文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
性病、毒ガス、寄生虫。麻酔薬、ペスト、放射線……。人類への脅威を解明するため、偉大な科学者たちは己の肉体を犠牲に果敢すぎる人体実験に挑んでいた! 梅毒患者の膿を「自分」に塗布、コレラ菌入りの水を飲み干す、カテーテルを自らの心臓に通す―。マッド・サイエンティストの奇想天外、抱腹絶倒の物語。解説・仲野徹 

 書店で平積みされた本書を見て、「人体実験の歴史」というタイトル、そして帯に大書された”マッド・サイエンティストの世界へようこそ!”という文字に、SF作品に数多登場する―研究のためなら他者の命など何とも思わぬ、いわゆる"マッド・サイエンティスト"の異様な話ばかりかと想像してしまった。

 確かに中盤まではそういった科学者や医師、さらには金儲けのために胡散臭いインチキをやらかした輩も登場するし、また壊血病(ビタミンC不足によって19世紀までの船乗りが悩まされた疾患)の原因となっている、食物に含まれる不可欠な「何か」を探るため実験台となったのは孤児院の子ども達だった―という(第9章「偏食は命取り―ビタミン」)。この辺りは当時の常識や階級意識、現在とは大きく異なる社会的な倫理観等も関連してくるのだろうが。
 但し、第3章「インチキ薬から夢の新薬まで―薬」で記された、独テジェネロ社開発の新薬臨床実験によって6人の犠牲者(生存はしているが―)を出した'06年の事件は、今なお臨床試験という名目で人体実験が行われることを求められる新薬開発の実情と、そこに含む危うさを示しているように感じられる。

 だが、本書に書かれたエピソードの大半を占めるのは、研究のために文字通り自分の体を実験台にした、あるいは危険極まりない領域へ自ら踏み込んでいった医師や科学者たちによるもの。
「麻酔は何が有効なのか」、「放射線は人体に如何なる影響を及ぼすのか」、「なぜ違う血液型を輸血しては(基本的に)ダメなのか」、「海に潜ったらなぜ急に浮かび上がってはいけないのか」etc……現代では常識となっているような事柄はどれも、彼ら自らが身体を張った研究によって解明され、確立されたものなのだ。
 無論、その「研究のため」という目的は往々にして、病気や苦痛に苦しむ患者、人類、あるいは国家のためという高尚なものというよりは、研究者本人の―傍から見れば常軌を逸していると思えるほどの―強烈な知的好奇心からくるものなのだが。  

 終盤の第12章「爆発に身をさらし続けた博士―爆弾と疥癬」以降、
「毒ガスと潜水艦(敵が用いる毒ガスへの対策のため、研究者は毒ガス中毒になりながらガスマスクを作った)
「漂流(海難者が生き延びるためには、海水を飲んでも大丈夫なのか)
「サメ(海難者にとって、飢餓や乾きと同様人食いザメも恐ろしい存在だった)
「深海(潜水病対策の研究は、やがて深海への挑戦へとつながっていく)
「成層圏と超音速(深海へ挑んだO・ピカールは、気球で成層圏へも挑んでいた)
と続くが、この辺りは科学史というよりはもはや、冒険譚を読んでいるような。

 彼らのような、優れた知性、蛮勇と言えなくもない勇気、そして何よりも並外れた好奇心の持ち主が、現代科学の礎を築いてきたことは間違いない。彼らが単なるマゾヒストでも自殺志願者でもなかったことは

―多くの自己実験者がほとんど考えられないような極限状態を体験したが、自分の仕事にはそれだけの価値があると信じていたが故に、彼らは実験に伴う危険にも不愉快さにも淡々と耐えた。それらの多くがきわめて高度な研究であったことは、ノーベル賞受賞者に占める自己実験者の割合の高さによって証明されている。 

という「あとがき」の一文でもわかる。

 言ってみれば古今の科学史のこぼれ話を蒐集した本と言えなくもないのだが、ここまで集まると凄絶ですらある。   

 

 大阪大医学部教授、仲野徹氏による特別集中講義「人体実験学特論」という体裁の解説も、内容をコンパクトかつ要領よく紹介する内容になっていて秀逸。
 書店で本書を見かけたら、まず解説から目を通してみるといいかもしれない。  

banner_03.gifにほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ ブログランキングに参加しています。
   ↑よろしければ ↑1クリック お願いいたします。
nice!(28)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 28

コメント 8

green_blue_sky

今年もよろしくお願いいたします(^_^;)
寒い時は免疫力が落ちすぎて風が長引きます・・・
by green_blue_sky (2017-01-18 07:06) 

ぼんぼちぼちぼち

記事を読ませていただくだけでもその壮絶さがうかがえやす。
天才と狂気は紙一重的な情熱を感じやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2017-01-19 20:35) 

sakamono

この紹介文を読んだだけで圧倒されました。
とても興味深い本ですが、ちょっとコワそう...^^;。
by sakamono (2017-01-19 23:08) 

るね

>green_blue_skyさん
当面、厳しい寒さが続きそうですので、とにかく無理をせず、養生なすって下さい。

>ぼんぼちさん
読み進めているととにかく「うひゃぁ……」という声が漏れる1冊ですね。とても面白いんですが。
ただ、自己実験者の大半は無謀どころか、確固たる理論と計算に基づいた上で、自信をもって自らを実験台にしているんですね。そこがまた凄過ぎますけれども。

>sakamonoさん
凄絶ともいえるエピソードのオンパレードは迫力がありますが、決してコワくはないし、そう重たいものでもないです(^^;)。科学の進歩発達というものについて考える機会にもなる1冊ではないかと。

by るね (2017-01-20 00:39) 

なんだかなぁ〜!! 横 濱男

コメントありがとうございます。
誤変換、気が付かなかったです。
訂正しました。(^0^)
by なんだかなぁ〜!! 横 濱男 (2017-01-20 08:35) 

kick_drive

こんばんは。以前テレビで観たのですが、ありとあらゆるキノコを食べて食べられるか食べられないかを調べた人がいました。良く死なずに済んだと思いました。

by kick_drive (2017-01-20 22:30) 

moz

大変遅れました ^^;
本年もよろしくお願いします!! 素敵な記事、楽しみにしています。
人体実験って何だかおどろおどろしい感じがしますが、じぶんの体でと言う方たちもいるんですね。実験者は手段で一番身近だとそういうことになるのですね ^^;
興味あるけれど、読むのは少し怖いかな? ^^;
by moz (2017-01-23 06:18) 

るね

>横 濱男さん
正直、ホントにランニングを始められたのかなぁと数秒ほど考えました(^^;)
自分も誤変換、時折やらかしてます。仕事の文書と違い、ちゃんと推敲してないからなぁw

>kick_driveさん
食べ物に毒があるかないか、これも最初は誰かが食べてみたことがきっかけですものねぇ(本書にも登場します)。
キノコも猛毒のものはかなり致死性が高いですから、絶対にマネしちゃいけませんな(誰もしないか(-_-;))。

>mozさん
今年もよろしくお願い致します(^^♪
人体実験というと悪いイメージが先行しますが、自らが実験台になるのも「人体実験」なのですよね。
時折強烈(お下劣?)な記述もありますが、科学史の一側面としてかなり面白い1冊だと思います。
by るね (2017-01-24 02:06) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。