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「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」他 [Book - Horror/SF/Mystery]

 作家・宮部みゆきのライフワークとなりつつある”三島屋変調百物語”の第3集。 

「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」宮部みゆき著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる変わり百物語が始まって一年。幼なじみとの祝言をひかえた娘や田舎から江戸へ来た武士など様々な客から不思議な話を聞く中で、おちかの心の傷も癒えつつあった。ある日、三島屋を骸骨のように痩せた男が訪れ「話が終わったら人を呼んでほしい」と願う。男が語り始めたのは、ある人物の前でだけ泣きやまぬ童子の話。童子に隠された恐ろしき秘密とは―三島屋シリーズ第三弾!

 6篇を収録。 

  • 第一話 魂取の池
  • 第二話 くりから御殿
  • 第三話 泣き童子(わらし)
  • 第四話 小雪舞う日の怪談語り
  • 第五話 まぐる笛
  • 第六話 節気顔 

 表紙の絵は表題作(第三話)のものと思われるが、その可愛いらしい絵柄に反した陰惨な展開で結末も救いがない。第五話「まぐる笛」も、この”三島屋百物語”でやるか!?と驚かされた怪獣+パニックホラーだが、不死の怪物を退治る役目を受け継いだ者が背負うもの、受け継がぬ者は幸いなのか不幸なのか……という問いかけが重く印象に残る(因みにこの話はこれで既読だった)。その分、第四話「小雪舞う日の怪談語り」の、おちかと、出稼ぎの子供を案じて江戸に現れた村の石仏"おこぼさん"とのやり取りには心が温まる思いがする。怪談会の話でもあるので、そこで語られる4つの話―屋敷の増築で逆さ柱が使われたことで起こる怪異、村の木橋に伝わる奇妙な戒め、母の盲いた右目が持つ〈病を見抜く眼力〉の話、そして死の床についた悪党の傍らに夜毎訪れる黒い影―と、どれも奇譚揃い。
 第二話「くりから御殿」はあの3・11の後に発表された作品であると巻末の解説をあったのを見て、納得。子供の頃に山津波で家族も幼馴染も一度に失った男が時折見る不思議な夢と、独り抱え続けた悲痛な思い。それは自分も過去のある一時囚わた思いと似たものであり、そして亭主に対する女房の言葉に、不覚にもボロ泣きさせられてしまうとは思わなかった。
 第五話「節気顔」は、己の死期が近いことを悟った放蕩男が、二十四節気の日に顔を借す―”この世を去った誰かの顔になる”こととなる。男は自分の役割を果たそうとするが……という、これまでに輪をかけて奇妙な話。後述の”商人風の男”が再登場し、おちかも己の役割、そして彼岸と此岸を往来すると思しき”商人姿の男”についてお思いを巡らしていく。 

 どれも単なる「不思議な話/怖い話」や「いい話」に留まることなく、バリエーション豊かな物語世界を構築している。百物語とするならばこの巻終了時点で未だ1/5であり、今後も引き続き楽しませてもらえると思う。 

 タイトルが”参之続”となっているように、既刊は2冊(単行本としては第4集「三鬼 三島屋変調百物語四之続」が昨年12月に刊行されている)。既読ではあったけれど記事にしそびれていたので、ここでついでに紹介。 

「おそろし 三島屋変調百物語事始」宮部みゆき著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
17歳のおちかは、ある事件を境に、ぴたりと他人に心を閉ざした。ふさぎ込む日々を、叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働くことでやり過ごしている。ある日、叔父の伊兵衛はおちかに、これから訪ねてくるという客の応対を任せると告げ、出かけてしまう。客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていき、いつしか次々に訪れる客のふしぎ話は、おちかの心を溶かし始める。三島屋百物語、ここに開幕!

  • 第一話 曼殊沙華
  • 第二話 凶宅
  • 第三話 邪恋
  • 第四話 魔鏡
  • 第五話 家鳴り

 川崎宿の旅籠の一人娘おちかはある事件によって心を閉ざし、江戸・神田で袋物屋『三島屋』を営む叔父の伊兵衛夫婦の元へ身を寄せ、自ら望んで女中として忙しく働いていた。ある日、急用で家を留守にした叔父夫婦の代役として約束の客を応対することになったおちかは、成り行きから「曼殊沙華の花が怖いのです」と語る、その初老の客の話の聞き役を務めることとなる……”変調百物語”が始まるきっかけが語られる第一話「曼殊沙華」
 第三話「邪恋」で、己の心を苛み続ける惨劇のあらましがおちか本人の口から、先輩女中のおしまが聞き役となって明かされる。第四話「魔鏡」は、眉目麗しい姉弟の道ならぬ恋が家族を崩壊させる。彼らにとり憑き、悲劇へと招いたのは何だったのか。
 そして第五話「家鳴り」は、二話「凶宅」から続く話だが、第一~四話と続く流れに大団円を迎え一つの区切りをつけたようにも思えるし、そこから続く流れを示すようにも。この話でおちかの前に姿を現す、この世ならざる者の”商人姿の男”は、今後もおちかに対峙する敵役?キャラとして暗躍するのか。

「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」宮部みゆき著(角川文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)一度にひとりずつ、百物語の聞き集めを始めた三島屋伊兵衛の姪・おちか。ある事件を境に心を閉ざしていたおちかだったが、訪れる人々の不思議な話を聞くうちに、徐々にその心は溶け始めていた。ある日おちかは、深考塾の若先生・青野利一郎から「紫陽花屋敷」の話を聞く。それは、暗獣〈くろすけ〉にまつわる切ない物語であった。人を恋いながら人のそばでは生きられない〈くろすけ〉とは―。三島屋シリーズ第2弾! 

  •  序  変わり百物語
  • 第一話 逃げ水
  • 第二話 藪から千本
  • 第三話 暗獣
  • 第四話 吼える仏
  •     変調百物語事続

 全て100㌻超の中編4篇に、導入としての「序」、そして後日譚的にある事件が綴られる短編「変調百物語事続」を収録。
 長きに亘り水害から村を守りながらもいつしか顧みられなくなり、挙句封じられた水神が、少年にとり憑き騒動を起こす第一話「逃げる水」
 三島屋の隣家である針問屋住吉屋の一人娘お梅が嫁することとなったが、お梅は事情によりこれまで何度も縁談がダメになっていたという。梅まつりの日も、そして祝言でも影のようにお梅に付き添う頭巾の女。無事に祝言を終えた後、住吉屋の女将でお梅の母お路が《黒白の間》でおちかに語った仔細とは。第二話「藪から千本」は、家にかかった”呪い”、怪異の原因とその祓いの解釈が、どことなく京極堂シリーズに通じるような(と思ったら解説で同じことが書かれてたorz)。お梅に影のように付き添っていた女性、お勝はこの後おちかに乞われ、三島屋で女中として働き、そしておちかの守役を務めることとなる。
 第三話「暗獣」は、三島屋の丁稚・新太が通う手習い所の縁で知り合った若先生・青野利一郎が語る、化物屋敷と噂される屋敷にひっそり棲み、人を恋いながら人と共には生きられぬ暗獣〈くろすけ〉と、その屋敷を隠居先と選んだ老夫妻との温かく、そして切ない交流。
―おまえは孤独だが、独りぼっちではない。おまえがここにいることを、おまえを想う者は知っている。
 老人が別れの際に〈くろすけ〉を諭した言葉は悲しく、優しく、そして力強い。
 この話の序盤に、おちかが若先生と共に出会ったのが自称・偽坊主の行然。その行然は「三島屋の屋根に怪しい暈がかかっている」と言い、その後《黒白の間》で語った、ある隠れ里で起こったある”奇跡”と破滅の顛末ー第四話「吼える仏」は、共同体や集団心理、あるいは信仰といったものが持つ暗い側面にも(隠喩的に)言及しているようで興味深い。
 巻末の短編「変調百物語事続」では第四話の後日譚で、行然が見た”店の屋根にかかった怪しい暈”の正体が明らかになる。
 お勝や若先生、偽坊主、さらには正義感の強い目明し〈黒子の半吉〉親分など、おちかを見守り助ける魅力的なキャラが次々登場し、物語世界が一気に幅を広げた感がある第2集。 

 ところで、第1集「おそろし」は2014年夏に、NHK BSプレミアムでドラマ化されていた(全5回)。

 おちか役を演じた波瑠は、原作に近いイメージで好演だったと思うが、ご存知の通りその翌年下半期の朝ドラで主演しブレーク、一気に大人気女優となったわけで……第2集以降の話もドラマ化してもらいたいと思っても難しいかも。そもそも第3集の巻末時点で、おちかはまだ18歳という設定で、ちょっと年齢的に?か。
 三島屋夫妻役の佐野史郎/かとうかずこ、女中おしま役の宮崎美子他、原作のイメージを損なわない配役、演出だったし、話もおおよそ原作通りに作られていたので、なかなかよかったんだが。
 もしも続編も映像化されるなら、ぜひともお勝=木村多江、黒子の半吉親分=渡辺いっけい でお願いしますw

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「大江戸怪談 どたんばたん《土壇場譚》」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 怪談、ホラー界の鬼才、平山夢明による時代怪談・恐怖譚集。 

「大江戸怪談 どたんばたん(土壇場譚)」平山夢明著(講談社文庫刊) 

◆内容紹介(帯書き+裏表紙から)
死屍累々、江戸最凶の恐怖譚
もうそこは死の崖っぷち。民よ、戦慄け、壊れろ。
”恐怖の申し子”の面目躍如!江戸最凶の怖気と狂気の33連弾。

饅頭のようにブヨブヨと弛んだ肉で土の中から嗤う裸の巨女、味覚を失い踵の胼胖(たこ)から己が摩羅(まら)まで自らを喰い尽くす男、按摩が畳の隙間に隠した盗銭がもたらす阿鼻叫喚―幾百の実話快談を記したホラー界随一の奇才が、死の淵を覗いた江戸時代の人間の哀れと可笑しみを、生き証人かの如く書き表す異形奇譚集。

 平山氏の時代物恐怖譚ということで、10年前に読んだ「大江戸怪談草紙 井戸端婢子」(竹書房文庫)と内容がダブってるんじゃ……と思ったら、書き下ろしに講談社文庫のPR誌『IN☆POCKET』に連載されたものと、「井戸端~」収録作品の一部を加えたものとのこと。前口上で著者が断っていたが、どうやら竹書房文庫でシリーズ化を目論んでいたものの頓挫したらしい。待ってたけれど続刊が出なかったのはそういうことか……。

 平山氏の本を読むのは久しぶりだが(最近は実話怪談もあまり書かなくなっているようだし、この人の小説にはなぜか元々、今一つ食指が動かない)、時代物ではあろうともやはりこの人の書いたものだな、という感じ。
 時代物を書き始めたきっかけが、故杉浦日向子女史の傑作「百物語」(新潮文庫)に触発されてということだけあって、それに載っていたような―理由も説明もない何とも不可思議な―奇譚(「右」「誘い火」「盥猫」「教え箱」「神通面」など)や妖怪話(「耳閻魔」「転び童」「六斎の間」、そして表紙にもなっている「饅頭女」!)、市井でつましく暮らす人々の優しさや親子の情愛が描かれるやさしい話(「こづかい楠」「汁粉」「妖物二題」「卵居士」他)、そしてこの著者の本領が発揮されたような酸鼻極まる因果応報話、復讐譚(「地獄畳」「魂呼びの井戸」「人独楽」「萎えずの客」「約定」など)のおおよそ三種に分けられるのは「井戸端婢子」とほぼ同じ(33編中13編が再録なのだからそうなるか)。

 印象に残ったのは― 

  • さる大名屋敷の働き者の腰元が、ある時から己だけに聞こえる陰口に悩まされるようになる。自分は気が触れたのだと悲嘆した彼女は暇乞いを申し出、自死を選ぼうとする。(「耳閻魔」
  • 神田の長屋にある井戸が、死に瀕した者の名を呼びかけると助かると評判になる。ある秋の夜更け、ひどく汚れた身なりの女が、瀕死の娘の名を呼んで欲しいと長屋を訪ねてくる。(「魂呼びの井戸」
  • 吝嗇家の医者の屋敷で奉公するお絹は空腹で眠れぬある夜、庭の楠の幹に小さな顔を見つける。呑気な表情を浮かべるその顔が腹立たしくなったお絹は、やにわにその顔をつねり上げ……。(「木の顔」
  • 医者修業で諸国を巡っていた若者が、陸奥のひなびた漁村で一夜の宿を乞う。温かく迎えられたが、村人たちの顔大人も子供も一様に生白い。脈を取ると≪死脈≫、つまり臨終の者の脈を示していた。(「死脈」
  • 性根の曲がった両替屋六兵衛は、新しく出来た軍鶏鍋屋で待たされたことに臍を曲げ、とても旨い鍋の味に嘘の難癖をつけ始める。進退窮まった軍鶏鍋屋の亭主は……。惨憺かつ悪趣味な結末がいかにも平山節な「人独楽」
  • 反物屋に伝わる古い木箱は、紙で封がしてあり、失せ物を尋ねると教えてくれると伝わっていた。新しく嫁入りした娘は中を見てみたいと思い始め……。予想とは異なるオチが何とも可笑しい「教え箱」
  • 薬種問屋の倉掃除で出てきた古い木箱には『不解封之事』の書き付けが。主人が箱を開けると、入っていたのは精緻かつ薄気味悪い《痩男》の能面だった。主人はそれを帳場の鴨居に飾るが……。(「神通面」) など。  

 今回は新録の「しゃぼん」「死脈」が、人の世の悲しさ、虚しさを感じさせて印象深い。特に「死脈」は、冒頭で提示される場所からして、間もなく6年を迎えるあの大災害が執筆のきっかけになっていると思しい。 

 著者の実話怪談が好きな人、杉浦女史の「百物語」を愉しめた人にはいいだろうが、通常の時代小説好きにはまずウケが良くないだろうな、と。
 個人的にはこの系統は嫌いじゃないんで、今度こそ続刊を……(^^;) 

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「死霊を連れた旅人」 [Book - Horror/SF/Mystery]

「山の霊異記」シリーズなど、山岳怪談の手練れによる書き下ろし実話怪談集。

「死霊を連れた旅人」安曇潤平著(だいわ文庫刊) 

◆内容紹介(裏表紙から)
山、海、宿……思い出の旅に忍び寄ってくる亡者の影
山岳怪談の第一人者が綴る二十六の恐怖譚

旅とは、未知の世界に行くことである。その先に楽しい思い出ばかりがあるとは限らない。
「深夜の山小屋に入ってきた男の正体」
「雪の中に飛び込んで消えた山仲間」
「海辺の田舎町を静かに練り歩く謎の神輿」
「旅館の鏡が映した有り得ないもの」……。
旅先で出会った怪異の数々が恐怖の世界に誘う。待望のシリーズ六作目! 

 山及びその他アウトドアアクティビティといったものと全く無縁な(ファッション方面を除くw)自分だが、この人の書く山岳怪談はなぜか気に入って、新刊―但し文庫で―が出るたび購読している。本書を店頭で見かけた際、昨夏に〈山の霊異記〉シリーズの第3弾「幻惑の尾根」が出たばかりでもう新刊……単行本では第4弾(「山の霊異記 霧中の幻影」)が昨年出ていたのは知っていたが、もう文庫化?と早合点してしまったが、どうやら書き下ろしのものらしい。
 となるとなぜメディアファクトリーの「幽BOOKS」の"山の霊異記"シリーズでなぜ出なかったんだろう……とちょっと疑問を覚えたが、帯書きにあるように"山岳怪談"という括りから少し出て、旅―海辺、旅先で詣でた寺にまつわる怪異譚、著者が若い頃に味わった恐怖体験等も収録した、ってこともあるのだろう。
 怖さの純度も、既刊に比べるとだいぶ薄口のような。マンネリというよりは、意図的に濃厚なものを収録しなかったような気もしないでもない。
 とはいえ、山をはじめとした自然の美しさ、厳しさの描写に行数が割かれ、それが話に奥行きを与えている点はこの著者ならではのものであり、他の数多の実話怪談とは一線を画す。

 冒頭の「いわくつきの山」は、舞台となった山をイニシャルで書いてはいるが、昭和史に残る大事件の一端なのだから、どこの山かちょっと調べたらすぐわかってしまうだろう。さもありなん、という話。
「三人の縦走者」「足」「避難小屋」「米を研ぐ」といったお馴染みの山岳怪談、友人夫妻の旅先での体験談「こたつ」「化粧鏡」 、信州安曇野の旧家での出来事「天井裏」、釣り旅行で伊豆に出向いた際に目撃した「小さな神輿」、そして著者自身が垣間見た死の淵にまつわる「背負ってくる」「死の匂い」などなど。

「思い出帳」は、超自然的な怪異は起きないし、異常な人間も(直接は)登場しないけれど、語り手が覚えた恐怖に近い不快感は理解できる。掉尾を飾る「死後の世界」は創作だよなぁと思うのだが、この人の山岳怪談をずーっと読んでいると、ひょっとしてあり得るかも……などと考えてしまったり。 

 この作家の一ファンとしてはまぁまぁ愉しめたのだけれど、どストレートな実話怪談を求める読者には不評だろうなぁ……という気も。 

 それにしてもこの、児童向け怪談本みたいな陳腐なタイトルは何とかならなかったものか。 

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「人形 デュ・モーリア傑作選」 [Book - Horror/SF/Mystery]

 ヒッチコック映画の原作となった『鳥』や、『レベッカ』で高名な閨秀作家デュ・モーリアの初期短編集。 

「人形 デュ・モーリア傑作選」D・デュ・モーリア著(創元推理文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
判で押したような平穏な毎日を送る島民を突然襲った狂乱の嵐「東風」。海辺で発見された謎の手記に記された、異常な愛の物語「人形」。独善的で被害妄想の女の半生を独白形式で綴る「笠貝」など、短編14編を収録。平凡な人々の心に潜む狂気を白日の下にさらし、人間の秘めた暗部を情け容赦なく目の前に突きつける。『レベッカ』『鳥』で知られるサスペンスの名手、デュ・モーリアの幻の初期短編傑作集。 

 短編14篇収録。
"異常な愛の物語"と紹介されている表題作は、謎めいた美女に恋い焦がれた青年の手記という体裁だが、その美女レベッカ(あの長編とは直接関係はない)が持つ秘密は……むしろ非常に現代的かもしれない。
 その他は主に、夫婦、恋人や家族など人間関係の行き違い、すれ違いや相互理解のズレによって炙り出される"人間同士のわかり合えなさ"を描いた作品が多い。

 デュ・モーリアが収録作で描く人物だが、男性は下心を抑えつつも隠し切れず、女性心理を常に量りかねる単純で短気な人物を、愚かしくもどこかコミカルに描いているのに比べ、女性はどれも自己完結型というか思い込みが激しいというか。男性を含む他人に依存しつつ、相手を己の中で美化しては現実に裏切られ傷つく……そんな身勝手さ、愚鈍さを描写する筆は、自身と同性でありながら(否、同性だからか)かなり辛辣だ。「性格の不一致」の"彼女"、「ピカデリー」の娼婦メイジー、「飼い猫」の母と娘、「痛みはいつか消える」の妻、「ウィークエンド」の彼女……。収録作で唯一ハッピーエンド(に思えるが、実は違っているのかもしれない)を迎える「幸福の谷」の彼女ですら、己の夢想癖をよしとし、その白昼夢が現実に表れたことで勝手に傷ついている。
 また「満たされぬ欲求」「ウィークエンド」は共に、今でいうお目出たいバ※ップルの顛末を書いたものだが、それぞれに対する著者の筆致には、愚かしくも健気な二人に対する苦笑混じりの温かさを感じられる前者に対し、後者には侮蔑すら感じられ、全く容赦ない。

 そして掉尾を飾る「笠貝」の語り手ディリーは、誰かに依存し粘着しては、善意、親切、正しい行為と信じて相手の人生を操ろうとする女性。相手はそれに嫌気が差して皆逃げ出してしまうのだが、ディリー自身は「他人の幸せを優先して常に損ばかりしている」と不満を訴え、相手の婉曲な拒絶に気付けない。……現代では何らかの神経症的な症候群で分類されそうな人物だが、その人物像は不快でグロテスク極まりないのだが、実際にいるよね、こういう手合いは……と気付いた瞬間ゾッとする。
「性格の不一致」は、男性と女性では感想も異なるのだろう。自分には"彼"の気持ちはよく理解できる(苦笑)。こんな女性相手はちょっと勘弁してくれと思うし、最後の一言をぶつけられたら完全にOutだろう。だが、女性が読めばこの"彼"は無神経で思いやり、デリカシーがない、と感じたりするのだろう……。やはり男と女というものは、わかり合えるなどただの世迷い言なのかもしれない―なーんて。

 やや毛色が異なるのが「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」に登場する牧師ジェイムズ・ホラウェイの徹底した俗物っぷり。実年齢よりも若い見栄えと軽妙かつツボを外さぬ話術で、上流階級や社交界に信徒を数多く集めているが、彼にとって大事なのは神でも信仰でもなく、裕福な信徒たちから得られる賞賛と寄付、そしてその余禄であり、彼にとって得にならない相手は眼中にない。貴族の息子の子を宿した少女が自死しようが、貧しい人々に公平な若い副牧師を陥れて教会から排除しようが、彼には何の呵責もない―という呆れるばかりの利己主義とゲスっぷり。だが聖人面して実際はゲスの極みなんて人間、現実でも珍しくないのか。 

 収録作品に怪奇幻想的な要素は殆どないが、人間関係の中でどこにでもあり得る"わかり合えなさ"を否応なしに突き付けて来る、何とも厭な"怖さ"がある。 

 なお、同じく創元推理文庫から4年前に刊行された短編集「いま見てはいけない ―デュ・モーリア傑作集」に収録された作品は、本書よりも後年のものだけあってか、不条理あり、幻想あり、SF風ありとより幅広い作風が愉しめる。

「いま見てはいけない―デュ・モーリア傑作集」D・デュ・モーリア著(創元推理文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙より)
ヴェネチアで不思議な老姉妹に出会ったことに始まる夫婦の奇妙な体験、映画『赤い影』の原作「いま見てはいけない」、急病に倒れた牧師の代理でエルサレムへのツアーの引率役を務めることになった聖職者に次々と降りかかる出来事「十字架の道」など、日常を歪める不条理あり、意外な結末あり、天性の語り手である著者の才能が遺憾なく発揮された作品五篇を収める粒選りの短編集。 

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読書会に参加 [Book - Horror/SF/Mystery]

 もう10日前の話になるが、先月29日(日)に、「怪奇幻想倶楽部 読書会」なるものに参加してきた。

 主に怪奇幻想系の翻訳小説を取り扱うブログ『奇妙な世界の片隅で』のkazuouさんが主催する読書会で、昨秋から始まり、今回が3回目の開催。第1回からお誘いをいただいており、自分もぜひ参加したかったもののどうにも都合がつかず、今回やっと参加することができた。

 読書会と銘打ってはいるものの、課題図書を読んでディスカッションするとか、発表が義務付けられるみたいな堅苦しいものではなく、普段あまり(周囲の人とは)話す機会のないジャンルを愛読する者が集まり、ある程度テーマを決めて語りましょう、みたいな。

 場所はJR巣鴨駅前の喫茶店の貸会議室。行きがけのバスに乗り遅れてしまい、定刻の13:30を少々遅れての到着になってしまった。
 参加された方はみな上記のブログの読者さんのようだったが、怪奇幻想~とある割には、そのジャンルばかりを偏食的に読んでいるのは自分くらいのようで、皆さんともまぁミステリからSF、ファンタジー、現代文学、はてはマンガに写真集etc……読書量、その範囲ともとにかく多いこと広いこと(^^;)。聞いたことのないような作品や作家が会話の中にぽんぽん出てくる上、その内容も多岐にわたるのでそのたび( ゚д゚)ポカーンと、もとい黙って聞くばかりw
 とはいえ、自分の全く知らないジャンルについて触れるというのも、これまた楽しいことではあったことも間違いないことで。
 その日の内容について、主催者のkazuouさんが詳細なレポをあげておられるので、興味ある方?はそちらもご覧になられたし。

 予定の時刻で終了した後、居酒屋に河岸を変えて2次会へ。
 アルコールが入りつつも、皆さん和やかに、しかしディープな内容で盛り上がっていた模様。

 今月末(26日)に第4回の開催を予定しているとのことで、一昨日にご案内のメールをいただいている。興味のある方は、一度そちらのブログを覗いてみてはいかがでしょうか。  

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