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「さらば麗しきウィンブルドン」 [Tennis - Gear&Book]

 日本近代テニス草創期である昭和8年に当時の世界ランキングで3位となりながら、選手として全盛期にあった26歳で突如謎の自殺を遂げた佐藤次郎。今なお日本人プレイヤー史上最強の呼び声も高い伝説の名選手の栄光と悲劇を描いた表題作の他、2編を収録したスポーツノンフィクションの名著。

◎「さらば麗しきウィンブルドン」深田祐介著(中公文庫刊)

◆内容紹介(裏表紙から)
昭和八年度の世界順位(ランキング)三位、日本テニス史上不世出と言われた佐藤次郎は、昭和九年の欧州遠征の途次、マラッカ海峡に身を投げた…。日本人初のウィンブルドン決勝戦出場者(ファイナリスト)となった天才の自殺の謎を追いつつ、日本テニスの黄金時代を描いた表題作ほか二篇を収録。スポーツ・ノンフィクション傑作集。

 錦織選手が世界ランク24位となり、「TOP10入りも不可能ではない」というかねてからの評価が夢でなくなってきたこの頃、こちらのブログを見て“佐藤次郎”の名を思い出した。

 佐藤次郎という選手については、上記のブログおよびこちら↓

を読んでもらえば概略はつかめると思われる。
 また、去る6月13日にはWOWOWで

として放映されたとのことで、その番組を見てこの選手の名を知った人もいるかもしれない。
※WOWOWを契約していなかった自分は知らなかったし当然視聴もしていない。残念[バッド(下向き矢印)]

 週刊ヤングジャンプで集中連載された(現在はこの人物の話が連載されている)『栄光なき天才たち』でもかつて採り上げられ、自分が佐藤次郎の名を知ったのはこれを読んでのことだった。
 →栄光なき天才たち 17 (ヤングジャンプコミックス)

 そういえば、とかつて読んだこの「さらば麗しきウィンブルドン」を書架から引っ張り出して再読。
 自分が所持するのは'97年発行の中公文庫版だが、初版のハードカバー版が出たのは'85(昭60)年。世界No.1の座がマッケンローからレンドルへ移る時代のものだが、採り上げている時代はそれよりもはるか以前のものなので、そう古さを感じさせるものではない。

「さらば麗しきウィンブルドン」は、不世出といわれた佐藤次郎の姿を、同時代に活躍、昭和9(1934)年のウィンブルドン混合ダブルスでは英国人選手と組んで優勝を果たし、日本人初のグランドスラムタイトル保持者となった三木龍喜の姿と対比させながら描き出している。

 フレッド・ペリー(英)やフランスの“四銃士”ボロトラブルニョンといった、今も名だたる伝説の選手達と互するだけの実力を持ちながら、デ杯ではなぜか不調が続き期待された結果を残せなかった佐藤次郎。
 そこに垣間見えてくるのは当時の社会通念を反映し、テニスの国別対抗戦であるデ杯すらも「人を活かす戦争」という国威発揚の手段と捉えるものであり、また当時の日本庭球協会がデ杯戦を行うことによる収入を当て込んで試合を強行させ、さらには学閥的な思惑も絡み、佐藤をはじめとした選手達を無視した強硬かつ無神経、無節操極まりない態度。
 昭和8年秋、同じくテニス選手で当時日本ランク2位であった岡田早苗と出会い交際を開始、年明けには婚約を交わし、前途洋洋たる未来が開けているはずであった佐藤だったが、同年4月7日、デ杯オーストラリア戦のために欧州へ向かう(当時のデ杯はアメリカもしくはヨーロッパで試合が開催されていた)航行中、マラッカ海峡で船から投身自殺を遂げる……。

 次郎がなぜ死を選ぶに至ったのか、諸説はあれど真相は定かではない(様々な要因が重なったと見るべきだろう)。著者の深田氏は「基金募集に汲々とし、選手の酷使に思いを致さない」庭球協会の態度を批判し、それがデ杯戦の重圧やその他の要因が重なり、心身の不調に苦しんでいた次郎を死に追い込んだという論調となっている。
 当時の世相を考えるならば、テニスの国別対抗戦といえど代理戦争の側面を持っており、次郎本人もまた「庭球は一つの戦争である」との持論を持っていた。個人の大会で素晴らしい成績をあげ、エースと目された選手が肝心のデ杯で悉く体調を崩し―神経性の下痢や胃腸炎―期待された勝利を得られなかったのならば、その選手に対する批判やバッシングも今日の比ではなかったのかもしれない。
……あるいは現代ではネット上で好き放題(時に無節操、不謹慎)な意見も数多あるだけ、それをぶつけられる側の苛酷さは変わらないのかもしれないが。

 本書にはその他、ミュンヘン、モントリオールの2度のオリンピックに出場しながら、モスクワ五輪に日本が不参加となったため挫折した自転車の長義和選手を描いた「銀輪きらめく日々」、昭和15年に予定された東京オリンピックの聖火リレー計画を、史実を元に小説として書かれた「聖火まぼろしなり」を収録。今回はそちらは再読していないため、紹介は割愛。

 ちなみにこの「さらば麗しきウィンブルドン」はハードカバーや文春、中公の各文庫版共絶版となっている。錦織選手の活躍にちなんでというわけではないが、かつて世界の頂点に最も近付いた日本人のテニス選手がいたということを広く知ってもらうためにも、是非とも復刻なり再版をお願いしたい。  

 

 お偉方の思惑やらメンツやら学閥絡みで、当の選手や若い世代そっちのけでお年寄り方が好き放題言ってるって状況は、つい最近でも某メジャースポーツでやらかしてますなぁ。
 日本のスポーツ界は80年近く経っても変わらないってことなのだろうか。

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Au-Saga

レンドル最強説のAu-Sagaです。
ブログの方へのコメント及びトラックバックありがとうございます。
現時点で佐藤次郎について知りたければここを見ればいいというくらい詳細情報が詰まった記事になってますね。興味深く拝見しました。

「さらば麗しきウィンブルドン」ですが私も入手して読んでみようと思います。
ただ、amazonの商品説明が「日本人初のウィンブルドン決勝戦出場者」となっていて清水善造と混じってますね。せめてこの辺の情報整理はして欲しいものです。
by Au-Saga (2011-11-15 10:47) 

るね

>Au-Sagaさん
コメントとTB承認、ありがとうございました。

自分もSagaさんの記事を読まなければ佐藤次郎の名を思い出さなかったかもしれません。「さらば麗しき~」を読んだのも10年近く前ですし、悲劇的な話だけに再読するのも躊躇していたところはありました。

スポーツノンフィクションには名作が多々ありますが、野球やサッカー、陸上やボクシング等に偏っていて、ことテニスに関するものは作品自体ほとんどないように思えます。だからなおのことこの作品はぜひ復刊して欲しいもので。
Amazonの記事は訂正して欲しいですねぇ。
by るね (2011-11-20 00:54) 

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